私は比較的いつもご機嫌です。ご機嫌の源のひとつは仕事帰りの寄り道。今回の寄り道シネマは「オーシャンズ8」です。
映画を観る楽しみは、ストーリーの面白さは勿論、衣裳を見る楽しさにもあります。今回のターゲットは世界一のファッションの祭典「メットガラ」。これは観るしかないでしょう!ということで初日に観てきました。ネタバレも辛口コメントもありません。物語の世界観と衣裳を純粋に楽しんできました。
コンテンツ
オーシャンズ シリーズ
オーシャンズ シリーズはジョージ・クルーニが演じるカリスマ詐欺師ダニー・オーシャンが率いる11人の男達が、それぞれの専門分野を駆使し前代未聞の強奪事件を計る犯罪ドラマ。
仲間にブラッド・ピット、マット・デーモンなど、女優陣はジュリア・ロバーツ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ。敵役にアンディ・ガルシア、アル・パチーノと豪華キャストが一同に会することでも人気のシリーズです。
ドンパチ無しの軽妙でスマートな映画。
1作目は「オーシャンズ11」つづいて「オーシャンズ12」「オーシャンズ13」と3作品があります。
元々はフランク・シナトラ主演の「オーシャンと十一人の仲間」のリメイク版。
4作目のオーシャンズ8は女性版
オーシャンズ シリーズ4作目に当たるオーシャンズ8は、ダニー・オーシャンの妹デビー・オーシャンを中心に8人の女性達が、世界最大のファッションの祭典「メットガラ」でハリウッド女優が身につける1億5000万ドルの宝石を狙います。
豪華なキャスティング
さて、その8人の女性達がとても豪華な女優陣です。知名度を上げた懐かしい映画と役作りに沿った今回の衣裳をご紹介しましょう。衣裳デザインは「ザ・インタープリター」「Life!!ライフ」の衣裳デザイン を手がけたサラ・エドワーズ
サンドラ・ブロック
兄と同じカリスマ的な司令塔デビー・オーシャンを演じるのは「スピード」「幸せの隠れ場所」のサンドラ・ブロック
デビーはカリスマ司令塔ということで冷静沈着、いつ何時でもクールに仲間をまとめます。その着こなしも色を抑えシンプルでクール。でも、時々女性らしい肌見せもあるファッションです。
ケイト・ブランシェット
デビーの頼れる相棒。ブラッド・ピットと同じような役どころルーを演じるのは「エリザベス」「キャロル」のケイト・ブランシェット
どの映画も別人のようになりきるケイト・ブランシェットですが、今回はとにかく女が惚れるかっこよさ!ロックスターのような中性的なイメージとのこと。
女性ファンが更に増えるでしょうね。衣裳の深みのある色合わせ、柄合わせが本当に素敵!
アン・ハサウェイ
ターゲットの大女優ダフネ・クルーガー役は「プラダを着た悪魔」「レ・ミゼラブル」のアン・ハサウェイ
「バービー人形のような、現代版エリザベステーラーの雰囲気を持たせたかった」と衣裳デザイナーが語ったダフネ・クルーガーのファッションは「ザ・おんな」
ヘレナ・ボナム=カーター
かつて一時代を築き上げたが今は崖っぷちの有名ファッションデザイナーローズ・ワイル役は「眺めのいい部屋」「アリス・イン・ワンダーランド」の赤の女王。エキセントリックな役柄ならお任せのヘレナ・ボナム=カーター
こちらの方がわかるでしょうか?
いや、誰だかわからない?
アリス・イン・ワーンダーランドでは白の女王のアン・ハサウェイと共演
シンデレラでは継母役のケイト・ブランシェットと共演
元々詐欺師でも何でもない「過去の人」になりつつあるデザイナーが犯罪グループの一員として巻き込まれる様子をユーモアたっぷりに演じています。でも「過去の人」でも過去に大成功をおさめた人。いざという時は大胆な行動を見せます。そんなかつての大物デザイナーの装いは、イギリスのビクトリア調にアバンギャルド(前衛的)なテイストを混ぜたようなファッション
ローズのモデルはパンクファッションの生みの親ヴィヴィアン・ウェストウッドと言われています。「過去の人」ではありませんが、映画の中に安全ピンのネックレスが出てくるのでこの方がモデルのようです。
ウェディングドレスも人気です。
この人のウェディングドレスはヴィヴィアン・ウェストウッドでした。
リアーナ
一匹狼の天才ハッカーナインボールを演じるのは歌姫リアーナ。
ジャマイカのレゲエミュージシャン ボブ・マーリーにインスパイアされたというナインボールのファッション。ドレッドヘアのアレンジが面白い!
ミンディ・カリング
天才ジュエリー職人アミータを演じるのはインド系コメディエンヌのミンディ・カリング。2017年経済誌「フォーブス」が発表した「世界で最も稼ぐテレビ女優ランキング」で3位に輝きました。コメディ映画やテレビのコメディ番組で活躍しています。
実家暮らしで「結婚しろ」とうるさい母親に辟易しているけれど、逆らいきれないよい子のアミータの衣裳はコンサバ寄りの上品でキュートな装いが多かったです。
オークワフィナ
スラれた方はスラれたことに全く気付かないという凄腕のスリ師コンスタンスを演じるのはアジア系アメリカ人のラッパー オークワフィナ。9月日本公開の「クレイジー リッチ」にも出演していて、今後女優としても楽しみ!オーシャンズシリーズの軽業師イエン役シャオボー・チンのような立ち位置か?軽い身のこなしも見せます。
グラミー賞候補の歌手SZA(シザ)らと一緒にGAPの新コレクション・グローバルキャンペーン映像に出演。眼鏡をかけているのがオークワフィナ。日本代表はお笑いタレント渡辺直美。
神業スリ師で身も軽いコンスタンスはストリートファッション
サラ・ポールソン
密売流通のプロ、潜入の名人のタミーはアメリカンホラーストーリーに全シリーズ出演。シーズン8ではメインを務めるというサラ・ポールソン
「キャロル」ではケイト・ブランシェット演じるキャロルの良き相談役
「ペンタゴン ペーパーズ 最高機密文書」ではトム・ハンクス演じるベンの妻トニー役でベンを支え、包み込んでくれるような安心感があります。
今回は潜入の名人ということで、並外れたコミュニケーション能力の持ち主。「何だか頼れる」「何か一緒にいたい」と思わせる所がさすが!
なので、裏の顔を全く知らない幸せな普通の家庭があるのです。良き妻、良き母らしい装いはニットにジーンズやスカートと日常着に近いファッション。
トゥーサン
この豪華なオーシャンズ8が狙うのはカルティエの「トゥーサン」という1億5000万ドルの宝石。トゥーサンというのは、1930年代身分違いでルイ・カルティエとの結婚を反対されながらも、その生涯をカルティエに捧げたハイジュエリー部門の最高責任者ジャンヌ・トゥーサンにちなんでつけられました。
無色の2連ダイアモンドのネックレスという設定で、1931年にジャック・カルティエがデザインしたネックレスを参考に、ホワイトゴールドにジルコニアをすえつけ、カルティエの全面協力のもと実際のカルティエの宝石職人が制作しました。
メットガラ【MET GALA】
前代未聞の強奪計画の舞台となるのはメットガラ。ではメットガラとはなに?
MET=メトロポリタン美術館の愛称
GALA=祭典
「メットガラ」というのは、ニューヨークのメトロポリタン美術館服飾部門で毎年5月の第一月曜日に催される慈善イベント。服飾部の資金集めとして開催されます。
その春の企画展のオープニングを飾り、ニューヨークで誰もが出たいと願うファッションの祭典です。大勢のデザイナー、モデル、人気俳優、ミュージシャンなどが招待され、招待客以外の席料はひとりあたり約3万ドルとか?!
一切を取り仕切るのは、泣く子も黙る「プラダを着た悪魔」ことアメリカ版ヴォーグの編集長アナ・ウィンター。企画展のテーマにちなみドレスコードが決められ、テーマを体現していると注目度が増します。
そのテーマを体現して毎年注目を集めるのはナインボール役のリアーナ
2015年の展示テーマ
「鏡の中の中国」西洋のファッションにおける中国の影響を紐解きました。
2017年展示テーマ
「川久保玲 コムデギャルソン 間の技」まさにアバンギャルド!
2018年の展示テーマ
「天国のボディー:ファッションとカトリックのイマジネーション」
法王風ファッション。
メットガラについては2017年公開の「メットガラ ドレスをまとった美術館」を観るとよくわかります。またこの映画では「ファッションは芸術か否か?」という論争にも少し触れています。
ニューヨークに寄り道
映画の楽しみは、物語、衣裳を観る楽しさの他に、舞台となる世界へと連れて行ってくれるところ。行ったことがある場所であれば「ああ、あそこだ!」と興奮するし、行ったことがない場所や、たとえ実際には存在しない場所でも登場人物を通して体現することができます。
今回の舞台はニューヨーク。
寄り道ついでにお話しに沿ってニューヨーク観光をしてみましょうか。
バーグドルフ・グッドマン
物語はオーシャンズ11と同じくデビー・オーシャンが出所するところから始まります。そして一番始めに立ち寄るのが「バーグドルフ・グッドマン」ニューヨークの高級デパートです。
創業から100年以上の間にファッションをモダンアートにまで高めたファッションアイコン的な存在のデパート。ファーストレディが就任式に着用するドレスをオーダーしたり、エリザベス・テイラーやジョン・レノン、グレース・ケリーをはじめとした多くのセレブリティが自身のスタイルを作り上げた場所です。
なので、間違っても似合わないモノを「お似合いです」なんて言って売ったりはしません。若い新人デザイナーたちのキャリアを支えるフロアもあります。パーソナル・ショッパーの素晴らしさを教えてくれたベティ・ホールブライシュもここで働くプロフェッショナルのひとり。
クリスマスのディスプレイを創り上げるまでの過程が紹介されていますが、ウィンドウ・ディスプレイ担当のデヴィッド・ホーイを中心に各アーティストが丁寧な手仕事で芸術の域まで高め、夢のような世界観を創り出しています。
クリスマスシーズンにニューヨークへ行ったら是非寄りたい場所です。
2017年のディスプレイはこちらに紹介されています。
https://www.vogue.co.jp/fashion/editors_picks/2017-12-26
プラザホテル
バーグドルフ・グッドマンで色々なモノを調達して、デビーがその日泊まるのは「プラザホテル」
こちらも開業から100年以上を誇る高級ホテル。現在はコンドミニアムの分譲と宿泊部分の両方があるようです。
このホテルも様々な映画の舞台になっていますね。
華麗なるギャツビー
トムがギャツビーの素性を暴くのがプラザホテルの場面。
ホームアローン2
ひとり違う飛行機に乗ってしまいニューヨークに着いたケビンが、パパのクレジットカードで泊まるのがプラザホテル
1992年の公開から25周年を迎えた「ホーム・アローン2」を記念して、プラザホテルでは「Live Like Kevin」という宿泊パッケージを発表。2017年12月1日から2018年10月29日まで予約受付しているようです。映画の中でケビンが体験したことと同じことが体験できる内容となっているとか。
https://getnews.jp/archives/1970181
カルティエ・マンション
ローズとアミータがトゥーサンの下見に訪れたのは、本当のカルティエマンション。そこに登場する宝石は全て本物。
12月のホリデーシーズンのかき入れ時に、2日間お店を閉めて撮影が行われたそうです。
ニューヨークへ行ったらティファニーもいいですがカルティエにも是非!
ワン・ワールド・トレード・センター(アメリカ版ヴォーグ編集部)
ワールド・トレード・センター跡地に建てられた、ワン・ワールド・トレード・センター。
この超高層ビルの中に、タミーが潜入するヴォーグ誌編集部があります。アナ・ウィンターのオフィスは本当のオフィスで撮影され、アシスタントも本当のアシスタントだとか。
エンパイヤーステイトビルの展望台は今も恋人達の待ち合わせ場所なのでしょうか?ワン・ワールド・トレード・センターの展望台からの眺めも素晴らしいようですよ。
メトロポリタン美術館
ニューヨークに寄り道、最後はオーシャンズ8の重要な舞台、世界最大規模のメトロポリタン美術館です。
【メトロポリタンの特色は、そのコレクションの幅が極めて広く、古今東西問わずあらゆる時代、地域、文明、技法による作品を収集していることにある。そして最大の特色は、これだけの規模の美術館が、国立でも州立でも市立でもない、純然とした私立の美術館である点である】(ウィキペディアより)
なので、とても1日では廻れませんね。数日通うか?ポイントを絞って鑑賞するか?
小さかった姪っ子とよく歌っていた大貫妙子の「メトロポリタンミュージアム」
この歌の元になったのはE.L.カニグズバーグの小説「クローディアの秘密」です。この中に出てくるミケランジェロ作とされる天使の像だけは観ようとか…小さなきっかけでも、「これは観たい!」というモノがあると一層楽しめますね。
ルーヴル美術館に次ぐ世界第二位の入場者数を誇るメトロポリタン美術館。オーシャンズ8は美術館が閉館してから開館までの夜間に撮影が行われました。
映画の中の展示テーマは「ヨーロッパの王室」
美術チームはヴェルサイユ宮殿をイメージしたということで、晩餐会が催されるデンドゥール神殿の壁にはヴェルサイユ宮殿の映像を映し出しました。
メトロポリタン美術館のガイドはこちらを参考にしてみて下さい。
キャストのメットガラ用ドレス
8人のガラ用ドレスはキャストひとりひとりと話し、世界のトップデザイナーと協力して制作されました。
サンドラ・ブロック
サンドラ・ブロックは、アルベルタ・フェレッティによるドレス。「オーシャン」という名前から、透け感のある黒地にヒトデや貝殻や波がゴールドとシルバーで刺繍されています。
ケイト・ブランシェット
ケイト・ブランシェットはどこまでも格好良くロックスターのようなジャンプスーツ。リカルド・ティッシがディレクター時のジバンシィです。
デヴィッドボウイっぽいとの声が高いですが、写真の時期のデビッドボウイが本当に素敵で見入ってしまいます。キラキラのジャンプスーツを着ていた頃の写真も一応探してみました。
これが一番近いでしょうか?
アン・ハサウェイ
今回のメットガラのホストを務めるまでに人気、美貌、ファッションセンスを誇るダフネ・クルーガーのドレスはヴァレンチノ
胸元の開いたホットピンクのドレスに長いケープがついています。準主役のカルティエトゥーサンがおさまるようシンプルなドレスにしたようです。
アン・ハサウェイのピンクのドレスと言えば、以前話題になったドレスがあります。
ため息が出るような美しい背中!
なのですが、「レ・ミゼラブル」でアカデミー助演女優賞を獲得した時のこのピンクのドレスがネガティブな意味で話題になってしまったのです。敗因があるとすれば直前で予定していたドレスを変えたからでしょう。「レ・ミゼラブル」の共演者アマンダ・セイフライドが、用意されたヴァレンチノのドレスによく似たドレスを着ると知って、土壇場になってプラダのドレスに変更することになったといいます。急な変更が「凶」と出てしまったんですね。
誰が何を着るかは事前にマスメディアに通知されているので「なぜ違う?」と大騒ぎになるのです。用意していたヴァレンチノサイドも知らなかったとしたら驚いたでしょう。大変ですねぇ。色をパールピンクにしたのも不幸が重なった原因かもしれません。
このようにアカデミー賞やメットガラなどで何を着るかは女優にとってもデザイナーにとっても大問題!というところを押さえてこの映画を観ると、ストーリーが素直に入って来ます。
めでたく映画の中のアン・ハサウェイはヴァレンチノのホットピンクのドレスを着ることが出来ました。ネガティブな出来事も映画でネタにしてしまうハリウッド女優のたくましさものぞきます。
ヘレナ・ボナム=カーター
「ヴェルサイユの薔薇」のような手描きのバラのドレスはドルチェ&ガッバーナ。
ヘアースタイルもバラ園のよう。
ティム・バートン監督作品にはなくてはならない人だけあって、衣裳に負けていません!
リアーナ
ここからの大変身がすごい!
ファッション界の神童と呼ばれているジャック・ポーゼンの真っ赤なドレス
ジャック・ポーゼンはリアーナのお気に入りのようです。
ストラップがないマーメードラインの流れるようなバイアスカットのドレスが特徴
ミンディ・カリング
インド生まれのデザイナーナイーム・カーンの黄金のドレス
ミシェル・オバマアメリカ前大統領夫人もインドの首相をもてなす晩餐会にナイーム・カーンのシャンパンゴールドのドレスを着ていました。
オークワフィナ
ジョナサン・シンカイのレースのドレス
レースやかぎ針編みなど繊細で柔らかいテイストとボーダーなどの直線的なテイストをミックスさせたデザインが特徴。アメリカで最も注目を集めているデザイナーのひとり。
サラ・ポールソン
ネイビーブルーのプラダのドレス
メットガラのスタッフとして内部に潜入中なのでシックなドレスですが、大きなパフスリーブにクリスタルが散りばめられている美しいドレス。サラ・ポールソンにとても似合っていて上品でキレイでした。
寄り道の寄り道
大人の女性とプチコスプレ
何と言っても50代のこの二人が美しい!
同世代としてはつい入れ込んでしまいますが、ダイアン・レインといい本当に格好いい大人の女性です。次回作が楽しみ!
映画館を出た時、ちょっと自分がクールで格好良くなった気がしました。それもあって絶対パンツで観に行こうと思っていましたが、「正解!」ちょっとしたコスプレです。大人の女性こそ遊び心も大切です。
迷子寸前!それもまた楽しい
寄り道の寄り道ばかりで最後までたどり着くか?と我ながら心配になった今回の寄り道シネマでしたが、目標目指してひた走るだけの毎日もね。たまには寄り道して、すぐ必要なことではないけれど知りたいことを調べたり、見たいモノを見たりするのもいいものです。
黄昏時、いつもと違う路地に入ったら少しだけ道に迷ってしまったような不思議な心地よさ。寄り道をお試し下さい。
大人のお洒落と心躍る暮らしをスタイリングするマチュアスタイリスト
黒滝伊都子