私は比較的いつもご機嫌です。
ご機嫌の源のひとつは仕事帰りの寄り道。
今回は映画を2本、ハシゴして観てきました。
1本目は「ビリーブ 未来への大逆転」
女性やマイノリティの権利発展に努めその道を切り開いてきたアメリカの最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグ、通称RBGのロースクール入学から活躍のきっかけとなった裁判で奇跡的な勝利をおさめるまでを描いた作品。
2本目は「RBG 最強の85才」
80才を超えて今なお最高裁判事として活躍するRBGの歩みと、母として妻としての素顔を追ったドキュメンタリー映画
映画衣装はスーツばかり?
いえいえ、とってもおしゃれな映画でもあるんです。
ジェニファー・ジョーンズが圧倒的な歌唱力で力強く歌い上げる「I’ll Fight」に乗せて、見終わった後の高揚感たらありませんでした!
「ビリーブ 未来への大逆転]
原題は「ON THE BASIS of SEX」
キャストと衣装
衣装担当アイシス・マッセンデン
「ビリーブ」の衣装担当はアイシス・マセンデン。今までこんな映画を担当しました。
ナルニア国物語シリーズ
ダンシング ハバナ
パパが遺した物語
実際のルース・ギンズバーグはハロウィンの仮装衣装が出回るくらいアイコニックな装いがありますが、今回の映画ではそれを敢えて封印。それでも本人と時代にとことん寄り添ってデザインしたとアイシスは語っています。。
フェリシティ・ジョーンズ
若かりし日のRBGを演じたのはイギリス バーミンガム生まれのフェリシティ・ジョーンズ
オックスフォード大学で英文学を学びながら学生劇に打ち込んだという才媛。
出演作品
「博士と彼女のセオリー」
理論物理学者のスティーヴン・ホーキング博士と元妻であるジェーン・ホーキングの関係を描いた作品で、元妻のジェーンを演じ注目されました。
「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」
「スターウォーズ」のエピソード3と4の間のアナザーストーリーで主人公の女性戦士ジン・アーソを演じています。
「インフェルノ」
ダン・ブラウン原作のダヴィンチ・コードシリーズ3作目。トム・ハンクス演じるラングドン教授と共に謎を追うヒロインの役。
モデルとしてもドルチェ&ガッバーナやバーバリーなどのファッションショーに多く出演し、資生堂のハイブランドライン「クレ・ド・ポーボーテ」のブランドアンバサダーでもあります。
2018年フランスの雑誌「マダム フィガロ」のカバーストーリーに登場しています。
映画衣装
キュートなワンピースやドレス
今回の装いは、1950年代のロースクール時代のキュートなワンピースやドレスから始まります。
この時ハーバード大学のロースクールに女性の入学がはじめて認められました。入学者500名のうち女子学生は9人でした。
ウェストがきゅっと締まってスカートがふんわりとした当時のドレスがとてもキュート。この時代女性はまだ下にコルセットをつけていたと言います。
上級生の夫が先に卒業してニューヨークで働くことになり、ハーバード大学からコロンビア大学に移籍を願い出ます。
夫の仕事で仕方なくではなく、「夫と一緒にいる」という彼女の強い意志が赤いワンピースに込められているよう。
オフィスカジュアル
コロンビア大学を首席で卒業しましたが、女性であることを理由にニューヨークではどこも雇ってくれる法律事務所はありませんでした。仕方なく教師となったあとの装いです。
自宅での模擬裁判の日の装いはダイアン・フォン・ファステンバーグがこの映画のためにデザインしたワンピース。
スーツ
もちろんスーツの装いも多かったですよ。
「同僚に女性がいると奥方がいい顔をしない」と断られた就活時の装い。固さの中に色っぽさもあるスーツでした。
勝負の裁判当日。勝負スーツが意外にもキュート。実際のルースもとてもキュートな女性です。
ルースはパイピングの襟が好きなようで、このようなジャケットをよく着ています。
「ここから歴史が変わった…」という裁判の場面です。ルースの弁護士としてのキャリアが始まりました。
“キャラクターのクローゼットに入って行って服を選び、その日にこれを着せたっていうような感じにしたかった”と衣装担当のアイシスが語っているだけあり、衣装の数がとても多い映画でした
フェリシティは衣装が50年代から70年代に移り変わることで、ファッションの解放も体感したと言っています。
アーミー・ハマー
ルースとコーネル大学で知り合い結婚。二人ともハーバードのロースクールに進学します。
ルースの一番の理解者、協力者で家事も育児もこなす。自身も有能な税制専門の弁護士でルースをマネージメントする能力も抜群な夫マーティンを演じました。
アーミー・ハマーはアメリカ ロサンゼルス出身。曾祖父は石油王、父は大会社のCEOと裕福な家で育ちました。両親の反対を押し切って役者の道へ。
出演作品
ソーシャルネットワーク
フェイスブックの創設を描いた「ソーシャルネットワーク」で知的な敵役の双子を演じて人気になりました。
「白雪姫と鏡の女王」
端正な王子顔。王子役をやらないわけにはいきません。
「君の名前で僕を呼んで」
ひと夏の青年の恋を描いた「君の名前で僕を呼んで」では年上のオリバー役
映画衣装
軽やかにフライパンを操り、現代かと勘違いしてしまうイクメンぶりの場面が微笑ましい。
大人の男性はスーツ以外にこんなジャケットとパンツの組み合わせがあるといいですね。
男性が座ったときの靴下って結構目立つでしょ?どうぞぬかりなく!
ハーバード大学のロースクールに通っている途中、生存率5パーセントといわれていたがんに冒されますが、ルースの献身的なサポートもあって見事に克服。税制の専門家として活躍します。さらに妻の能力を最も理解し、シャイなルースに変わって猛烈に売り込みをかける有能なマネージャーでもあります。
196㎝の長身にスーツがきまっています。男性のスーツ姿はサイズ感、Vゾーンのあき具合、襟の太さなどで時代が出ますね。
「よくぞこの二人が出会った」というベストカップル。ルース自身も2度のがんを克服して金婚式を超えるまで添い遂げました。
「RBG 最強の85才」
それではここで実際のルース・ベイダー・ギンズバーグをご紹介しましょう。
ルース・ベイダー・ギンズバーグ
大きな目がねと大ぶりのイヤリング、法衣の上にはアイコンになっている付け襟。
若かりし頃はこちら!
美人&キュートですね。
17才の時に亡くなった母親の教えは「全てに疑問を持て」「怒るのは時間の無駄」
この言葉を胸に、苦学しながらも頭角を現していきます。
弁護士時代から変わらず女性やマイノリティの権利発展に努めてきたルースは、1993年にビル・クリントン大統領に女性として史上2人目となるアメリカ最高裁判事に指名されます。マーティンも嬉しそうですね。
「RBG 最強の85才」を撮ったジュリー・コーエンとベッツィ・ウェストは、「ルースから学んでほしいのは、怒りによってエネルギーを無駄に消費しないで、面と向かって負け戦になりそうならどうやって同じテーブルにつかせるかを考える。そのうえで戦略的に行動すること」と語っています。
ルースのファッション
それではルース・ベーダー・ギンズバーグのファッションをご覧下さい。
法衣の上につける付け襟や大ぶりネックレスは様々な種類があります。どれを着けるかは法則があるようですよ。
ブレードの縁取りのジャケット。赤ではなく同じトーンの青いイヤリングが効いています。
民族衣装のような華やかな刺繍モノもお好みのようですね。
さわやかなブルーのカフタンでロースクールに通う孫娘と楽しそうに話をするルース。
ストールのかけ方が最高にエレガント!
このように襟元にドレープが入るように羽織ると美しいです。
ターコイズの濃淡も素敵ですね。
85才のロックスター
最高裁判事の任期は終身。自ら引退を決めるか弾劾されない限り亡くなるまで任を解かれることはありません。2019年現在、9人の最高裁判事のうち3人が女性だそうです。
2018年トランプ大統領が保守派の最高裁判事を任命したため、保守5対リベラル4と保守派寄りの最高裁の判決が多く見られるようになりました。そんな中、市民の平等のため辛辣で筋の通った反対意見を打ち出してきたRBGは「最高裁判所のロックスター」と称されるほどの人気を呼び、関連書籍の販売やTシャツ、トートバックなどのグッズ展開など「RBGフィーバー」が巻き起こりました。
どちらが良い悪いではなくどちらかに片寄るのが問題。バランスが大事。
ルースの講演会にはロックスター並みの長蛇の列ができるそうです。
ルースは寝食忘れて仕事に取り組みますが、芸術を愛し、オペラの観劇や自身が出演したりもしています。話題の本はたいていすぐに読み終えているそうです。
二人の子供を育てた母親でもあり、「コロンビア大学を主席で卒業できたのも学業の他に大切な宝物があったから。夕方4時から子供が眠るまでは一緒に過ごし、それが気分転換になった」と言っています。
何かを手に入れるために何かを手放すのではなく、手に入れるための必然にしてしまう。
RBGだから出来た?確かにねぇ、スーパーウーマンですよね。
でも、何かをあきらめようとする前にこのことを思い出したいなと思うのです。あきらめたらそこで終わり。あきらめなければ思いが叶う可能性がある。
意志あるところに道は開けるのだなと、爽快な気分と共に改めて強く感じました。。
まとめ
今回の映画は2本とも「ラブストーリー」でもあります。
ルースはマーティンが病に冒されたとき、看病と子育てをしながら自分と夫の授業に出席してマーティンのキャリアの手助けをしました。回復してマーティンがニューヨークの法律事務所に就職が決まったとき、あっさりハーバード大学のロースクールからコロンビア大学に転学して一緒についていきました。
マーティンはルースのワシントンでの仕事が決まったとき、こちらもあっさりとニューヨークでのキャリアを捨ててワシントンで職に就きました。寝食を忘れてしまう妻に「食べる時間だよ」「眠る時間だよ」と促したのはマーティンだったと言います。
女だから男だからではなく、それぞれが持っている能力を伸ばすためお互いが精一杯バックアップする。50年前にその関係性を築いていたのは驚きです。
その関係はマーティンが78才で亡くなるまで続きました。
たった50年前なのに、まだそんなに男女の格差があったのですね。
ルースのような人が怒りで無駄な消耗をせず、現状をよく見て冷静に戦略を立て、積み上げてきてくれたおかげで今があります。
ルースは男になろうとしたのではありません。だからファッションもとてもキュートです。性差があることは認めた上で、「意志ある者には門戸を開かなければならない。行うか行わないかを自分の意志で決められるように。」ということなのだと思います。
最後にその姿勢を後押しするようなテーマ曲を聞いてみて下さい。
若い頃のマーティンは長身でなかなか素敵でしたよ。映画で確かめてみて下さいね。
大人のお洒落と心躍る暮らしをスタイリングするマチュアスタイリスト
黒滝伊都子